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研究紹介

甲谷匡賛(こうたに・まさあき)作品展
「A−LSD!」
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の病床におけるHIGHな出来事


1 趣旨
 この展覧会では、甲谷匡賛(こうたに・まさあき)が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の病床から発信する絵画作品約50点をご紹介 します。
 ALSは、運動神経が冒され、筋肉が萎縮していく、進行性の神経難病です。現在、その原因も治療法もわかっていません。病気の進行にしたがい、手足をはじめ身体の 自由がきかなくなり、次第に会話、食事、呼吸、まばたきさえも困難になっていきますが、感覚、自律神経、頭脳は何ら冒されることがありません。進行には個人差があり ますが、発病して3〜5年で寝たきりになり、人工呼吸器を装着しなければ、呼吸することができなくなると言われています。
 甲谷匡賛は、1958年岐阜県に生まれ、中央美術学園(中退)で学ぶと同時に、10代後半から東洋思想や様々な身体技法に興味をもち、ヨガ、整体、指圧、新体道などを 学びました。1995年、京都に手技治療院「天療術院」を開設し、その施術の技だけでなく、身体観や思想性に惹かれ、山田せつ子、岩下徹をはじめとする数多くのダンサー 達も訪れるようになりました。2002年に発病、2004年末から京都市内の病院に入院中で、現在の病状は会話不可、四肢・体幹機能はほぼ全廃の状態にあります。絵画制作は、 特殊なソフトを搭載したパソコンを使い、わずか数センチ動かせる左手の甲でスイッチをたたくことで、ひとつひとつ、作業の指示を選択しながら、長い時間をかけて、 忍耐強く、深い集中のうちに生み出されていきます。
 発病前、甲谷匡賛は、身体を使い、身体に触れ、つねに、身体をとおして思索を深めてきました。そして今、まるで最高位の修行の ような「ALSな日々」(氏の公開日記のタイトル)において、 氏は、「今の身体に対する気づきは、発病前の数十倍に匹敵する」と言っています。「身体に対する気づき」とは、すなわち、「生への気づき」であり、「私は誰?」 「私達は何?」という問いへの探求に他なりません。
 このような日々の中から生み出される作品は、いずれも鮮やかな色彩と生命の躍動感に満ち、と同時に、その向こう側には底のない虚空が広がるかのようです。厳然たる 苦の体験の中にあって、その源であるALSを、服用すると時に至福の体験をするという幻覚剤LSDの新種「A−LSD」になぞらえ、「老いや病や死について語ると、 ついつい話は深刻になりがちだが、それらは生まれてきた以上避けられないことだから、深刻になるのは間違っていると思う。深刻と真剣は違う。真剣さにはユーモアが ある。」と語る、甲谷匡賛の世界をぜひご覧下さい。
 会場内では、甲谷匡賛の絵画作品とあわせて、西川勝(CSCD特任助教授/看護師/臨床哲学)と久保田テツ(CSCD特任講師/メディアアート)による映像作品を 上映します。西川が甲谷とのメールによる往復書簡から言葉を紡ぎ、久保田が甲谷の日常生活を素材に映像を制作します。 また、鷲田清一氏の講演にくわえ、会期中3回の哲学カフェを開きます。病や死を含む「生の問題」は、医療や福祉の 専門家だけの問題ではありません。また、「自己を表現する」ということも芸術家の専売特許ではありません。甲谷匡賛の作品に触れていただいた様々な方々と、私達が 生きていく上で、今一度、立ちどまって考えてみたいテーマについて、言葉を交わし、思索を深める時間をもちたいと思います。
 尚、会期中の11月26日〜12月2日、横浜国際平和会議場 パシフィコ横浜 会議センターにおいて、第17回ALS/MND国際シンポジウムが開催されます。
http://www.jade.dti.ne.jp/~jalsa/2006sympo/program.html

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任教授 志賀玲子

2 会期
  2006 年11月23日(木・祝)〜12月3日(日)
  休館日  11 月24 日(金)、11月30日(木)
  開館時間 10:00〜18:00 (金曜日は〜20:00 )入館は閉館の30 分前まで

3 会場
  横浜美術館 アートギャラリー1
  〒220-0012 横浜市西区みなとみらい3−4−1
  Tel.045-221-0300
  http://www.yaf.or.jp/yma/

4 入場料
  無料

5 主催等
  主催:横浜美術館(横浜市芸術文化振興財団)/大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
  協力:NEC/Cafe Philo(大阪大学大学院文学研究科 本間研究室内 http://cafephilo.jp
    
6 関連事業等
1)記念講演会「「できなくなる」ということ」
  講師 鷲田清一氏(大阪大学副学長/臨床哲学)
  日時 11 月25 日(土)13:00〜14:30
  場所 横浜美術館レクチャーホール(聴講無料)

2)哲学カフェ
  日時 11月23日(木・祝)15:00〜17:00「じっと見る理由」 於・カフェ小倉山
      12月 2日(土)   15:00〜17:00「ディスプレイと連結する身体」 於・アートギャラリー1
      12月 3日(日)   15:00〜17:00「じっと見る理由」 於・カフェ小倉山
  進行 西川勝、本間直樹(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター助教授)

<哲学カフェとは―。>
 喫茶店やカフェなど人の集まる場所で、日常生活に関することから科学・芸術まで、社会の基本となることがらについて、参加者みんなで問いを立て、議論を楽しみます。 特定の理論や思想を参加者に強要するのでもなく、また、本やテレビ・新聞などから仕入れた知識をひけらかすのでもなく、自分たちのことばで、ゆっくりとものごとを 問い直します。発言してもしなくても自由、途中参加・退出も自由です。

7 問合せ先
■横浜美術館 (担当/天野太郎、長濱佐和子)Tel 045-221-0300
〒220-0012 横浜市西区みなとみらい3−4−1
http://www.art-museum.city.yokohama.jp

■大阪大学コミュニケーションデザイン・センター (担当/志賀玲子)
Center for Study of Communication Design (CSCD)
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/
〒565-0826 大阪府吹田市千里万博公園1−1
Tel 06-6816-9494(代表)06-6816-9090(直通)Fax 06-6875-9800

*甲谷匡賛作品展の企画詳細についてのお問合せ、取材等のお申込みは、志賀玲子(CSCD)まで直接ご連絡ください。
 e-mail/ shiga@cscd.osaka-u.ac.jp

2006年9月28日現在


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