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研究紹介

個人情報


■ 〈発信箱〉 遺伝子情報保護
 理系と文系では発表の「作法」が違う。学会や講演会でそう感じたことがある。理系の研究者はもっぱらスライドを使う。文系は印刷したレジュメを配る場合が多い。
 カルチャーの違いがおもしろかったが、最近は様子が変わった。どの分野でも発表用コンピューターソフトが幅を利かせているからだ。
 文理の壁の崩壊かと思ったら、「まだまだ」と感じる場面があった。個人情報保護法の全面施行を来春に控え、遺伝子解析の研究指針を見直している3省合同の委員会だ。 外部の科学者や法学者らで構成するが、時に議論がかみ合わない。
 遺伝子研究の際の匿名化には2種類ある。試料提供者の氏名などをすべてはぎとり、二度と関連付けられないようにするのが「連結不可能」匿名化。暗号化した試料の 符号と氏名との対応表を残し、必要な時に両者を結び付けられるのが「連結可能」匿名化だ。
 症状の変化などを追跡する研究は、連結可能が必要となる。科学者には「常識」だが、異なる匿名化の必要性がピンときていない委員もいる。
 さらに頭を抱えたのは、連結可能匿名化された遺伝子情報が個人情報に当たるかどうかでもめていたことだ。科学の世界では当然だと思っていたが、法律上は違うと いう解釈も成り立つらしい。ここまでくると、文理の壁以前に、わけがわからない。
 遺伝子情報の保護を多様な分野の人で検討するのは当然だ。その際には、わかりやすい論点の整理と、余裕のある日程が欠かせない。合同委員会を阻む壁は、その両方が 欠けていることだと思えてくる。

(論説室・青野由利
2004-09-15 『毎日新聞』朝刊



■ 学会が個人情報保護指針
日本医師会デイリーニュース 2004/07/27 共同通信

1 学会が個人情報保護指針 頭文字や居住地の発表駄目 患者特定の恐れなくす
 学会発表や論文から患者が特定され、プライバシー侵害となるのを防ぐため、日本外科学会など12学会でつくる外科関連学会協議会は25日までに、患者のイニシャ ルや居住する都道府県を論文などに記載しないことを柱とする個人情報保護指針をまとめた。
 発表について患者側の明確な同意がないケースもあるとみられ、訴訟などのトラブルになるのを避けるのが狙い。将来は、患者側の同意文書を発表の条件にすることも 検討している。
 病気など医学研究にかかわる個人情報は特に慎重な扱いが求められ、政府も保護のための検討を始めた。同協議会は学会誌などで、所属する医師約5万5000人に指 針順守を呼び掛ける。
 学会発表や論文で行う症例報告では患者の状態について、日時や場所、治療経過、手術時の映像などをスライドやビデオで示すことも多い。  同協議会座長の落合武徳(おちあい・たけのり)千葉大教授(外科学)は「正確に報告しようとするあまり、患者名を『落○武×』などと記載することもある」と説明。患 者の特定につながる可能性があった。
 情報保護指針は、日本外科学会の倫理委員会が中心となって策定。患者のイニシャル、居住地のほか、個人を推定できる肩書、受診科も書かず、治療経過の記載は年月 までとした。
 事故や災害対応の報告で場所を示さないと意味がない場合でも、都道府県名か政令都市名にとどめることや、患者の写真は目を隠すことも規定。それでも保護が不十分 と思われる場合は、患者側の同意か、大学や病院の倫理委員会の承認を得るよう求めている。

2 「時代遅れ」と患者団体 すべてに同意求める
 「氏名や住所などの識別情報だけを個人情報だと取り違えている。匿名化は当たり前だ」。弁護士や医療関係者らでつくる「患者の権利オンブズマン」(福岡市)の池永 満(いけなが・みつる)理事長は、外科関連学会協議会がまとめた個人情報保護指針に対し「時代遅れ」と手厳しい。
 患者の情報は治療のために使うのが本来の目的。池永さんは「研究といえども目的外利用。すべての研究で同意を得るべきだ」と主張する。
 患者団体によると、学会などで発表することを患者に言わない例は多い。正しい病名を知らせないまま担当医が発表した後、患者が学術雑誌を読んで自分の病名を知っ たケースもあるという。
 患者との信頼関係があれば研究にも同意が得られるはずだと池永さんは指摘。同意なしに発表する医師の姿勢を「そもそも治療についても患者に十分説明していないの ではないか。研究よりプライバシー優先という発想が全くないのが原因だ」と批判する。
 通院先の病院に紹介され、別の病院で受診する患者のカルテが、本人は内容を十分に知らされていないのに、病院間でやりとりされることもあるという。コンピュー ター管理された情報の流出を危ぐする声も出ている。

3 症例報告
 症例報告 少数の患者について、病状や治療の経過を学会などで発表すること。新しい治療法を用いた例や、まれな病気にかかった例が報告の対象となることが多い。 ほかの医師の治療の参考とするのが主な目的。報告が集積することによって、まれな病気や新しい病気の全体像が明らかになることも期待される。



■ 症例報告を含む医学論文及び学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針

平成16年4月6日

 医療を実施するに際して患者のプライバシー保護は医療者に求められる重要な責務である.一方,医学研究において症例報告は医学・医療の進歩に貢献してきており, 国民の健康,福祉の向上に重要な役割を果たしている.医学論文あるいは学会・研究会において発表される症例報告では,特定の患者の疾患や治療内容に関する情報が 記載されることが多い.その際,プライバシー保護に配慮し,患者が特定されないよう留意しなければならない.
 以下は外科関連学会協議会において採択された,症例報告を含む医学論文・学会研究会における学術発表においての患者プライバシー保護に関する指針である.

1.患者個人の特定可能な氏名,入院番号,イニシャルまたは「呼び名」は記載しない.
2.患者の住所は記載しない.但し,疾患の発生場所が病態等に関与する場合は区域までに限定して記載することを可とする(神奈川県,横浜市など).
3.日付は,臨床経過を知る上で必要となることが多いので,個人が特定できないと判断される場合は年月までを記載してよい.
4.他の情報と診療科名を照合することにより患者が特定され得る場合,診療科名は記載しない.
5.既に他院などで診断・治療を受けている場合,その施設名ならびに所在地を記載しない.但し,救急医療などで搬送元の記載が不可欠の場合はこの限りではない.
6.顔写真を提示する際には目を隠す.眼疾患の場合は,顔全体が分からないよう眼球のみの拡大写真とする.
7.症例を特定できる生検,剖検,画像情報に含まれる番号などは削除する.
8.以上の配慮をしても個人が特定化される可能性のある場合は,発表に関する同意を患者自身(または遺族か代理人,小児では保護者)から得るか,倫理委員会の 承認を得る.
9.遺伝性疾患やヒトゲノム・遺伝子解析を伴う症例報告では「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(文部科学省,厚生労働省及び経済産業省) (平成 13 年 3 月 29 日)による規定を遵守する.

〔外科関連学会協議会 加盟学会〕
日本外科学会,日本気管食道科学会,日本救急医学会,日本胸部外科学会,日本形成外科学会,日本呼吸器外科学会,日本消化器外科学会,日本小児外科学会, 日本心臓血管外科学会,日本大腸肛門病学会,日本内分泌外科学会,日本麻酔科学会

〔本指針に賛同している学会〕
日本肝胆膵外科学会,日本血管外科学会,日本喉頭科学会,日本呼吸器内視鏡学会,日本乳癌学会,日本腹部救急医学会,日本食道学会(平成16年6月24 日付賛同)

http://www.jsvs.org/ja/info/040406.html (2004年8月1日現在)

日本血管外科学会雑誌HP
http://www.jsvs.org/ja/



■ 本籍や病歴の情報取得禁止 個人保護で金融機関に制限
日本医師会デイリーニュース 2004/09/07 共同通信

 金融庁は6日、個人情報保護法の来年4月の施行を前に、金融分野に関する指針の要綱案を公表した。顧客から本籍や病歴などの重要情報を取得することや、本人の 同意のないまま個人データを第三者に提供することを原則禁止するなど、金融機関による個人情報の取り扱いを明確にルール化した。
 銀行や保険会社、消費者金融などは融資や保険加入などで個人情報を扱う機会も多く、入手段階から一定の制限を設けたのが特徴。指針に違反した場合には行政処分の 対象となる。
 要綱案によると、本籍や病歴、犯罪歴、労働組合の加盟の有無など特に重要な個人情報の取得や利用は原則禁止。生命保険会社が契約時に加入者の病歴を入手する場合 などは例外として認めることにした。
 さらに、本人の書面による同意なしに個人データを第三者に提供することも禁止。ただ本人に通知した上で、子会社など特定先との情報の共同利用は認めた。
 同日開かれた金融審議会金融分科会特別部会では、金融機関が個人信用情報機関へ情報提供した場合に共同利用とみなすかで意見が分かれ、今後の検討テーマと された。
 また、個人情報が流出した際には、監督当局や対象となった本人に早急に報告し、事実関係や再発防止策を公表することを求めている。


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