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児童福祉

こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)

“こうのとりのゆりかご”設立にあたって 慈恵病院


◇20年前、群馬にも 6年で10人預かる
 10日にも熊本市の慈恵病院で国内初の「赤ちゃんポスト」の運用が始まるが、その原型ともいえる施設が約20年前、群馬県にあった。戦後、私財を投じて 養護施設を設立するなどの活動で知られる、吉川英治文化賞受賞者の品川博さん(99年に83歳で死去)が発案した。死亡した乳児が見つかる事案もあり、 活動は6年弱だった。赤ちゃんポストには賛否両論あるが、当時の関係者は「親への批判はあっても、子どもの命を救うことは別の問題のはず」と今回の取り組みを 注目している。【鈴木敦子】

 同県大胡町堀越(現前橋市堀越町)の農村に建てられたプレハブの「天使の宿」で86年に設置。畳約2枚の空間を上下に仕切り、布団を数枚敷き詰めた。 「子どもを置いたら電気をつけて」と張り紙をし、明かりがつくと約50メートル離れた施設の職員が駆けつけた。80年代は、コインロッカーに赤ちゃんが 捨てられたり、「サラ金地獄」による親子心中などが社会問題化した時代。品川さんは「子どもを親の都合で殺すな」と話していたという。
 約6年間で乳幼児約10人が預けられ、5歳以下の3兄弟が一緒に置かれていたことも。「うちの子、元気ですか」と度々電話してくる、母親らしき女性もいたが、 名乗り出る親はいなかった。元職員(44)は「1人で赤ちゃん7人を風呂に入れた。頭を支える手がしびれ、指の皮がふやけて腫れた」と振り返る。「捨て子を奨励 するのか」という匿名の手紙や電話も何度かあったが、その度に職員は「子どもには罪はない」と答えた。
 品川さんは「親がいつでも迎えに来られるように」と警察や児童相談所などには相談せず、役所でそれぞれの戸籍を作り、品川さんらが後見人となった。 厚生労働省は単独戸籍について「法的に問題はない」としており、当時の厚生省は「天使の宿」の存在を把握したうえで、「県が指導する」と資料に記載した。
 しかし、経済的負担は大きく、子どもたちの世話はボランティアが中心だった。92年2月には預ける場所で死んでいる乳児が見つかった。届け出を受けた警察は 検視の結果、病死として扱ったが、品川さんにも職員にもこの出来事が重くのしかかり、廃止のきっかけになった。しかし、元職員の成相(なりあい)八千代さん (79)は「救える命を見捨ててはいけない」と話している。

◆出産時の親の悩みなどの電話相談をしているNPO法人「ささえあい医療人権センター」(大阪市北区)の辻本好子代表の話
 こうした施設は捨て子を助長するという指摘があるが、「天使の宿」は子どもが犠牲になる現状を憂いた、やむを得ない措置だったと思う。その意味で、社会に 対する問題提起だったとも言える。捨て子を生まない法的支援や命の重みを若い世代に教えるなど、社会がすべきことはたくさんある。

5月8日3時8分配信 毎日新聞



◇92年まで群馬に同様の施設、閉鎖まで20〜30人保護 (07.04.29)
 かけこみ寺に設けられた「天使の宿」。1986年ごろの写真。プレハブで中央にベッドが置かれている(左は木暮さん)=佐藤報恩財団提供 慈恵病院の 「ゆりかご」と似た性格を持つ施設が、1986年から5年半、前橋市内で運営されていた。
 同市堀越町にある社会福祉法人「鐘の鳴る丘愛誠会」の創設者、品川博氏(99年死去)が、同会の敷地内に作った6畳ほどのプレハブ小屋で、名前は「天使の宿」。 数か月後、借金苦の親子を受け入れる近くの施設「かけこみ寺」の敷地内に移転した。品川氏は、かけこみ寺を運営する財団法人「佐藤報恩財団」にもかかわっていた。 関係者によると、消費者金融からの借金に悩んだ末の心中などから子どもを救う目的で天使の宿を設けたという。
 天使の宿は中央にベッドがあり、赤ちゃんを預けたら親がプレハブ内の明かりをつける仕組み。両法人の職員が見回って発見する態勢だった。赤ちゃんを置いたことを、 電話で知らせてくる親もいたという。
 赤ちゃんや保育園児など20〜30人が預けられた。大半は後日、親が引き取ったが、児童相談所を経て乳児院などの公的施設に移されたり、財団役員を後見人に してかけこみ寺で養育されたりする例もあった。女優の木暮実千代さん(90年死去)も活動にかかわったという。
 しかし、92年2月24日、天使の宿で、生後2〜3週間の男の赤ちゃんが凍死しているのが見つかった。それまで1年以上、赤ちゃんが置かれるケースがなかった ため、職員の見回りが手薄になっていたという。この事故をきっかけに、群馬県の指導もあって天使の宿は閉鎖された。
 跡地には現在、民家が並ぶ。関係者は「託した親には申し訳ない気持ちでいっぱい」と言葉少なに語る。
 一方、慈恵病院の「ゆりかご」は、新生児が預けられたら自動的にブザーが鳴り、医師や助産師が駆け付ける態勢。保育器や、保育器が置かれる部屋の温度は36度 程度に保つことになっている。同病院の田尻由貴子看護部長(57)は「子どもを守りたいという品川さんの願いはわかる。病院では、昼夜を問わず安全策に最善を 尽くす」としている。
 天使の宿廃止後に財団に入り、かけこみ寺の園長を務める成相八千代さん(79)は「ゆりかごは、安全面に十分配慮して取り組んでほしい」と話している。

◇赤ちゃんポスト完成 熊本市の慈恵病院 国内初、10日から運用
 熊本市の慈恵病院(蓮田晶一院長)が設置準備を進めていた、親が育てられない新生児を託す「赤ちゃんポスト」(こうのとりのゆりかご)が1日、完成した。 市保健所の検査も同日行われ、問題なしと判断された。同病院は10日から運用を開始する。
 病院1階のリネン室の一部を利用して、約4平方メートルの「新生児相談室」を新設。室内には温度を36度に保つ保育器を置いている。相談室の窓に扉 (縦50センチ、横60センチ)が設けられ、屋外から新生児を保育器に預けることができる。保育器には母親あての手紙も置かれ、考え直して引き取りに来る際の 連絡先などを記すという。室内の天井には保育器を撮影する監視カメラが設置された。
 屋外の扉の右手には「チャイムをならす勇気を! ダイヤルを回す勇気を! 」のメッセージがあり、病院と相談するためのチャイムが取り付けられているほか、 熊本市や県の相談窓口の電話番号が掲示されている。
 この日はデモンストレーションを実施。母親役の看護師が扉を開けて赤ちゃんの人形を預けると、2階のナースステーションでは青色灯が点滅すると同時に、 モニターには監視カメラが撮影した保育器の映像が映し出された。看護師は約1分で相談室に駆け付けた。
 蓮田太二副院長は「完成できてうれしい。利用する前に、チャイムを鳴らして私たちに相談してくれることを願っている」と話した。

最終更新:5月2日10時7分 西日本新聞朝刊




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