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村上 春樹

むらかみ・はるき


作家・翻訳家

*以下の記述には、血友病やHIVに関して誤解を招く表現がありますので、そのまま鵜呑みにしないでください。

村上春樹 20020910  『海辺のカフカ』(上)  新潮社
村上春樹 20020910  『海辺のカフカ』(下)  新潮社

(上)P187−189

「大島さんは運転が好きなんですか?」
「僕は危険な運動をすることを医者にとめられている。だからそのかわりに車を運転する。代償行為だ」
「どこか体に悪いところがあるんですか?」
「病名を言うと長くなるけど、簡単にいえば一種の血友病なんだ」と大島さんはこともなげに言う。「血友病のことは知っている?」
「だいたい」と僕は言う。生物の授業で教わった。「一度出血するととまらなくなる。遺伝子のせいで、血液が凝固しない」
「そのとおり。血友病にもいろんな種類があって、僕のはわりに珍しいタイプのやつなんだ。そんなに重度のものではないんだけど、それでもなるべく怪我を しないように気をつけなくちゃならない。一度出血が始まると、とりあえず病院にいかなくちゃならないからね。おまけに君もよく知っているように、世間の 病院にストックしてある血液にはいろいろと問題がある場合が多い。エイズにかかってゆっくりと死んでいくことは、僕の人生のオプションの中にはない。 だから僕はこの町に、血液に関してはとくべつなコネクションを用意してある。そんなわけで旅行もしない。定期的に広島の大学病院に行くことを別にすれば、 この町を出ることはほとんどない。まあもともと旅行や運動がそんなに好きなわけでもないから、つらいとは思わないけど、料理はいささか困るね。包丁を持って 本格的に料理ができないのは悲しいことだ」
「運転だってじゅうぶん危険な運動だと思うけど」と僕は質問する。
「危険の種類が違うんだ。僕は車を運転するときには、できるだけスピードを出すようにしている。スピードを出していて交通事故を起こせば、指先をちょっと 切るくらいのことではすまない。大量に出血すれば、血友病患者も健常者も生存条件にはそれほどの差はない。公平だ。凝固がどうこうなんてややこしいことは 考えずに、のんびりと心おきなく死ねる」
「なるほど」
 大島さんは笑う。「でも心配することはないよ。そんなに簡単に事故は起こさない。こう見えても僕はとても用心深いし、無理はしない性格だ。車の コンディションも最上に保ってある。それに死ぬときは自分だけで静かに死にたい」
「誰かを巻き添えにして死ぬことは、大島さんの人生のオプションの中にはない」
「そのとおり」



◆略歴
 1949年1月12日に京都に生まれる。兵庫県芦屋市で思春期をおくる。芦屋市立精道中学校、兵庫県立神戸高校、早稲田大学第一文学部演劇科卒業 (1975年、7年間かかった)。在学中の1974年にジャズ喫茶「ピーターキャット」を国分寺で開店。1979年「風の歌を聴け」でデビュー(群像新人文学賞)。 1981年専業作家に。1982年11月「羊をめぐる冒険」で野間文芸新人賞受賞。
 代表作に「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(新潮社。谷崎潤一郎賞受賞作)「ノルウェイの森」「ねじまき鳥クロニクル」(新潮社。読売文学賞) 「海辺のカフカ」(新潮社)など。レイモンド・カーヴァーやスコット・フィッツジェラルドなどの翻訳もある。いまの日本で広く読まれている純文学作家の一人。 同時に、ロシアや米国など、世界的に読者を持つ。この意味で、現代日本を代表する作家の一人であるともいえそうだ。

以上、「はてなダイアリー - 村上春樹」より引用

村上春樹 - Wikipedia
はてなダイアリー - 村上春樹



■関連ウェブサイト
◇村上春樹中毒者のためのインターネット情報源
http://www.diana.dti.ne.jp/~piccoli/haruki.htm


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