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Kitamura
ポストドクトラルフェロープログラム研究計画書(抜粋)
「日本における難病者の患者運動史をめぐる政治社会学」
氏名:
北村健太郎
博士学位取得機関:立命館大学
研究テーマ:日本における難病者の患者運動史をめぐる政治社会学
学振・特別研究員の申請実績:有
日本学術振興会特別研究員(平成17年度〜19年度)
「日本における血友病と血友病者の生活史の解明およびそれに付随する課題の考察」
受入れ教員
所属機関・職名:立命館大学大学院
先端総合学術研究科教授
氏名:
松原洋子
1.現在までの研究状況
2.これからの研究計画
(1) 研究の背景
(2) 研究目的・内容
(3) 研究の特色・独創的な点
(4) 年次計画
3.研究業績
1.現在までの研究状況(図表を含めてもよいので、わかりやすく記述すること。様式の改変・追加は不可(以下同様)
1 研究開始時における研究の背景、問題点、解決方策、研究目的、研究方法、特色と独創的な点について当該分野の重要文献を挙げて記述すること。
2 申請者のこれまでの研究経過及び得られた結果について整理し、@で記載したことと関連づけて説明すること。3.研究業績欄に記載した論文、
学会発表等を引用する場合には、3.研究業績欄の番号を記載するとともに、申請者が担当した部分を明らかにして記述すること。
1
<研究の背景>
1980年代から、従来の障害者/病者を対象とした研究枠組みに対する批判として、障害者/病者本人の視角からの研究が提起され始めた。1990年代には、
障害者が無力化される社会構造を分析した障害学が提唱され、日本でも同時期に障害者の自立生活運動をめぐる問題が考察された。以後、
障害者運動に関する先行研究は蓄積されているが、
日本における難病者(以下、稀少疾病者を含む)の患者運動史の研究は着手されたばかりで未解明の部分が多い。大きな理由の一つは、
「難病」という行政用語には日本独特の歴史的経緯があり、
その政治的文脈を正確かつ丁寧に読み解く困難があるからである。換言すれば、日本の難病をめぐる政治社会学を考究することは、そのまま国際研究だと言える。
以上を背景としつつ、これまで申請者は、日本における血友病者の患者運動史の解明を研究対象に設定して、
血友病者本人もしくは彼らに深い関わりを持つ人々の視点から研究を進めてきた。以下ここでは、日本の血友病者の患者運動史の研究に限定して述べる。
これまでの血友病に関わる先行研究は、主として二つの視角からなされてきた。一つは、生命倫理である。
日本では出生前診断の問題を考える具体例の一つとして取り上げられた(大谷[1985]、保木本[1994]他)。もう一つは、
1980年代から顕在化したHIV/HCV感染に関わる血液供給政策や薬害研究である(Feldman and Bayer[1999=2003]、山崎・井上[2008]他)。
しかし、血友病者の患者運動史やその患者会/コミュニティを主題とした先行研究は海外の研究しかなく(Katz[1970=1975]、Potts, D.M. and Potts, W.T.W.[1995]、
Resnik[1999])、日本のこれらを主題とした研究は、
申請者の
博士論文「日本における血友病者の歴史――1983年まで」および査読論文
(研究業績1-1、1-2、1-3、1-4、1-5)のみである。
<問題点>
申請者は、「薬害HIV」研究の意義を否定しないが、現在の「薬害HIV」研究は
「薬害HIV」の顕在化過程の分析が脆弱である。「薬害HIV」顕在化以後の事後的な分析は、
血友病者の患者運動の歴史的経緯を誤読する可能性が大きい(例えば、片平[1995])。
1983年時点の混沌とした状況では事後的に考える適切な対応は非常に困難であったと考える。
<解決方策>
申請者は、「薬害HIV訴訟」の訴訟戦略の論理と一線を画して、
HIV感染顕在化以前の血友病者の患者運動に注目した博士論文として結実させた。
特に1983年は自己注射公認という成果を獲得した一方で、血液製剤の安全性の問題が顕在化した年でもある。申請者は、
1983年が血友病者とその家族にとって上記の両義性を持つ年であること、
後述するように血友病者の患者運動が変容したことを考慮して薬害顕在化以前と以後の分割点に設定した。
<研究目的・研究方法>
申請者のこれまでの研究目的は、日本の血友病者の患者運動史の解明であった。血友病者とその家族自身が書いたものや彼らに対する聞き取りを中心にした研究方法を用い、
血友病者およびその家族の視点から時間軸に沿って、日本の血友病者とその家族の患者運動の歴史を解明し、考察を進めた。
薬害の文脈から離れることによって初めて、薬害研究の視角からなされた先行研究の誤解/誤読を正すことができ、
より正確な血友病者の患者運動の歴史の記述に近づくことが可能になったのである。
<特色と独創的な点>
申請者のこれまでの研究の特色は、
血友病者の生活世界、身体的実感を重要な参照軸として、
医療の場面にとどまらない日本の血友病者の患者運動の歴史を解明したことである。申請者のこれまでの研究は、
血友病者を育てた父親へのインタビューを基礎とした
「ある血友病患者会の成立と発展――血友病者を育てたある父親のライフヒストリーをもとに」(久留米大学大学院修士論文、2003年3月)を端緒として、
次に
「本人の時代へ――血友病における患者運動の質的変化の素描」(立命館大学大学院博士予備論文〔修士論文に相当〕、2004年1月)を執筆した。申請者は、
1983年からのHIV感染顕在化であまり注目されなくなった1960年代後半から1970年代の日本における血友病者とその家族の患者運動の歴史を博士論文で丹念に考究した。
2007年3月31日、立命館大学から博士(学術)を授与された。
2
今後(2008年秋以降)研究を広く展開させる予定だが、ここでは申請者の研究基盤である日本における血友病者の患者運動史について詳述する。
血友病者の患者運動史を基点としてHIV/HCV感染を見ると、血友病治療が身体内部に直接働きかける技術だからこそ、
血友病者はHIV/HCV感染あるいは重複感染という大規模で稀有な経験をした。また、
1970年代から1980年代初頭に血友病者とその家族を取り巻いた"ホーム・インフュージョン"(自己注射)を歓迎する空気を鑑みると、
HIV/HCV感染および重複感染は最先端医療が常に孕む不確実性の帰結と言える。「薬害HIV」に関する先行研究は多々あるが、
日本のHIV感染顕在化以後の血友病患者会/コミュニティの混乱やエイズパニックを経て訴訟提訴に至る紆余曲折を主題とした緻密で総合的な研究は皆無である。
山崎・井上編[2008]をはじめとする「薬害HIV」を称する調査研究は、
血友病患者会/コミュニティの「HIV非感染者」への視点が決定的に欠けている。
血友病者のHIV感染は、単にHIV感染から血友病者たちが身体的/精神的苦痛を受けただけでなく、血友病者同士の関係や血友病患者会/コミュニティを破壊した事象である。
1980年代、特に血友病患者会に属していたHIV非感染の血友病者にとって、HIV感染は親しい友人を突然失った/奪われた事象であり、
自らが感染して死んだかもしれない事象である。ゆえに、自分が生きていることを素直に喜べない者も多くいた。HIV感染にした一部の血友病者は訴訟へと動いていき、
HIV非感染の血友病者は沈黙した。HIV非感染の血友病者にも明らかな傷を残し、HIV感染の話題は半ばタブーとなった。
これまでの日本の先行研究では、
血友病者のHIV感染をめぐる事象の背景をなす社会構造の緻密な分析、
特に日本内外の政治的背景およびグローバルな経済動向の分析が決定的に欠落している。
例えば、2002年、血液製剤を含む生物由来製品の取り扱いを全面的に改めた「薬事法及び採血及び供血あっせん業取締法の一部を改正する法律」(血液新法)が成立した。
これは「薬害HIV訴訟」和解以後、元HIV原告団を中心に展開された運動の成果である。血友病者のHIV感染には、
当時の日本政府が先送りした血液行政の諸課題という政治的背景およびグローバライゼーションが急速に進展した血液供給システムの経済的背景がある。
血友病者のHIV感染をめぐる事象が、これらを背景とした政治的事象である以上、医療の枠を越えた政治社会学的考究が必要不可欠である。研究業績2-1=4-3で、
全体像の把握の困難さを指摘した。研究業績2-3、2-7、2-8では、
同じく血液製剤を媒介としたHCV感染に関して、
2008年のC型肝炎特別措置法成立が訴訟終結のための「政局」決着に過ぎないことを指摘した。申請者は、
これまでの研究成果と歴史的経緯に沿って血友病者本人およびその家族の視点を踏まえ、血友病者のHIV/HCV感染を政治的事象と捉えて分析と考究を進めている。
〈参考文献〉
Feldman, A Eric and Bayer, Ronald 1999 Blood feuds: AIDS, blood, and the politics of medical disaster
=2003 日本語版編集:山田卓生・宮澤節生・杉山真一 翻訳:山下篤子『血液クライシス――血液供給とHIV問題の国際比較』現代人文社
保木本一郎 1994『遺伝子操作と法』日本評論社
片平洌彦 1995「薬害としてのエイズ」日野秀逸・片平洌彦・高野真樹・藤崎和彦 1995『人間にとって医学とは何か』新日本出版社
Katz, Alfred H. 1970 Hemophilia: a Study in Hope and Reality Charls C Thomas Publisher
=1975 伊地知睦夫訳『血友病――その現実と希望』全国ヘモフィリア友の会
大谷實 1985『いのちの法律学――脳死・臓器移植・体外受精』筑摩書房
Potts, D.M. and Potts, W.T.W. 1995 Queen Victoria's Gene: Hemophilia and the Royal Family Sutton Publishing
Resnik, Susan 1999 Blood Saga: Hemophilia, AIDS, and the Survival of a Community University of California Press
山崎喜比古・井上洋士編 2008『薬害HIV感染被害者遺族の人生――当事者参加型リサーチから』東京大学出版会
2.これからの研究計画
(1) 研究の背景
1.で述べた研究状況を踏まえ、これからの研究計画の背景、問題点、解決すべき点、着想に至った経緯等について参考文献を挙げて記入すること。
<これからの研究計画の背景>
難病者を対象とした研究は、いわゆる障害者の研究に比べれば、圧倒的に質量ともに蓄積が薄い。
質量両面における難病者をめぐる研究の充実が求められている。
例えば、血友病者の歴史やその患者会/コミュニティを主題とした先行研究は海外の研究だけであり、日本における研究は申請者の研究が唯一である。
申請者は、これまでの研究成果を継承して、政治社会学的な着眼点により重きを置き、日本の血友病者の患者運動史の解明を主軸に、難病対策の歴史的展開、
難病者の患者運動史の解明へと発展させる。
本研究は、将来の難病者に関する国際比較研究の基礎となる必要な研究である。
<問題点および解決すべき点>
難病者に関わる諸研究は、医学等の自然科学と社会福祉学等の人文・社会科学に、これまでの研究成果がまたがっているため、充分に体系立てられてこなかった。また、
真の国際化には国内を充分に理解し、海外へ発信できる内容を保持しなければならない。
生存学創成拠点が「拠点」と名乗る以上は、国内の研究をないがしろにせずに、
各研究領域の優れた研究成果を整理集約する作業に尽力することが必要と考える。その上で、
各自あるいは各プロジェクトの研究成果を生産/発信することが重要と考える。
<着想に至った経緯>
これまでの研究成果は、研究対象とされた難病者に充分に還元されているとは言えず、難病者が利用しやすい形に変換する仕組みが必要である。
本研究は上記を踏まえて、難病者本人の研究参加および成果利用を念頭に置き、研究計画を立て研究成果を発信する。例えば、「薬害HIV」の先行研究は、
加害/被害の二項対立図式の繰り返しに過ぎず、「現在の」血友病者の問題に対応しきれていない。申請者は、ウェブサイトを運営して自ら整理した資料を公開し、
地道に信頼関係を構築したのち、地域の血友病患者会の連携の再構築を目指す
「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」の世話人としても活動している。
(2) 研究目的・内容(図表を含めてもよいので、わかりやすく記述すること)
1 研究目的、研究方法、研究内容について記述すること。
2 どのような計画で、何を、どこまで明らかにしようとするのか、具体的に記入すること。
3 共同研究の場合には、申請者が担当する部分を明らかにすること。
4 研究計画の期間中に異なった研究機関(外国の研究機関等を含む)において研究に従事することを予定している場合はその旨を記載すること。
海外派遣フェローを希望する場合はこちら記述してください。
1
<研究目的>
本研究の目的は、難病者の日常生活と難病者に関わる専門職の現場という具体的な地点から考察を進め、学術研究を技術開発や政策提言に結びつけることである。
国内研究の深化は、海外へ発信する研究成果の充実させる国際研究である。その一部として、申請者は、日本における血友病者の患者運動史の解明を引き続き行ない、
これまでの研究成果を継承しながら政治社会学的視座により重きを置き、運動史に内在する問題と現代的意義を考究する。
<研究方法>
本研究は、申請者の単独研究と他の問題関心を共有するメンバーとの共同研究の二つの部分からなり、単独研究と共同研究を同時並行で進める。
血友病者の患者運動史の解明は、申請者が単独で行なう。申請者は博士論文執筆の過程で独自の人脈を全国に築いている。申請者が持つ
独自の人脈を生かし、
政治的背景および経済的背景を踏まえて広範かつ体系的に考究を進める。その他の日本における難病者の諸研究は、
立命館大学生存学研究センターの
「難病の生存学研究会」プロジェクト(以下、難病プロジェクト)
に関わる院生とともに共同研究を行なう。必要に応じて、各担当者の個人研究、複数名の共同研究を併用して研究を進める。
既存の研究会/プロジェクトと連動させ、研究成果を系統的に整理集約する。
難病プロジェクトの支柱として後述する
「生活」「歴史」「政策」「技術」「運動」「倫理」(2.-(2)-A)を立てる。
<研究内容>
スモンの発生は日本の難病対策の嚆矢となり、1972年の
「難病対策要綱」を基本方針として諸政策が進められてきた一方で、スモンは「薬害」告発の契機でもある。
現在の
「薬害」概念は、スモン発生時に比べれば、拡大解釈/使用されている。元大阪HIV原告団の花井十伍は
「厳密には薬害エイズは広義の薬害であり、狭義にはスモンが該当する」と述べている。他の「公害」「薬害」
告発を念頭に
「薬害エイズ」がどのような歴史的位置にあるのかを明確化し、位置付け直す。
戦後日本の「公害」「薬害」として告発された系譜を遡り、「公害」「薬害」の名付けも含めて、微妙な歴史的位置を根本的に再検討する。
他方、難病者の団体内部では、お互いの相互交流やピアカウンセリングが実践されてきたが、政策立案やその提言には疎いのが常であった。
近年のIT技術や緩和医療の普及に加え、医療費抑制政策と連動する
尊厳死言説の台頭(研究業績4-12、4-13)
など難病者を取り巻く環境、社会からの無言の圧力も厳しくなっている。こうした
現在の情勢に見合った難病研究が必要である。
2
<研究計画>
本研究は、前述したように(2.-(2)-@)申請者の単独研究と難病プロジェクトメンバーとの共同研究を同時並行で進める。ここでは、
難病プロジェクトを中心に説明する。既に生存学創成拠点には、後述する様々な研究テーマの研究員、PD、院生がおり、要点は便宜的に以下の六点に文節化される。
〈1.難病者の生活実態の解明及びニーズの把握〉
難病者の生活実態を様々な側面から明らかにする研究である。具体的には、
ALS患者K氏、S氏などのニーズ把握
(研究業績4-5、4-7、4-8、4-9、4-14、4-15、4-16、4-17、4-18)、人的支援、生活を支えるために必要な各種サービスや裏付けとなる諸制度、
居住空間の在り方などを検討する。これは支柱「技術」等に接続される。具体的な研究テーマとして、
筋ジストロフィー患者の自立生活とその支援、ALS患者の自立生活とその支援、
難病者に対する多職種連携・協働などがある。
〈2.難病者の歴史の解明及びアーカイヴ構築〉
いわゆる難病と呼ばれる人たちの歴史を解明する。歴史の解明は、他の支柱「政策」「技術」等に接続され、研究が深化する。難病者の歴史については、
難病の歴史のアーカイヴ構築を目指している
「難病支援ネット北海道」があり、
2008年6月時点で連絡が取れる関係になっている。「難病支援ネット北海道」とは相互により良い関係構築を目指す。具体的な研究テーマとして、
申請者の日本の血友病者の患者運動史(研究業績1-1、1-2、1-3、1-4、1-5)などがある。
〈3.難病対策を含む戦後日本の社会保障政策の再検討〉
難病対策を含む政策研究である。介護保険法、自立支援法、難病事業、医療政策の絡み合いをほぐして、
最終的には難病者団体が行政と交渉できる能力を身につけることを目指す。
必要に応じて
「老い研究会」と連動して(研究業績4-12、4-13)、
戦後日本の社会保障政策の変遷を吟味する研究を進める。具体的な研究テーマとして、人工透析と医療経済、難病者に対する政策支援などがある。
〈4.医療技術、情報技術、建築技術等の共有〉
身体に直接関わる医療技術と、社会とのインターフェイスとしての
情報技術、建築技術の諸問題を考究する。
先端総合学術研究科の
松原洋子教授が主導する「ITP(含スイッチ研)」等の情報技術に関わる研究成果の共有
(研究業績4-5、4-7、4-8、4-9、4-14、4-15、4-16、4-17、4-18)、他の支柱「生活」「倫理」等との接続、難病者に関わる技術の変遷の解明などを進める。
具体的な研究テーマとして、難病者の情報保障(文字盤での会話など)、ALS患者の自立生活の居住空間などがある。
〈5.難病者の患者運動の組織強化と将来構想〉
従来、難病者の患者運動の組織的基盤は脆弱であり、運動の中心を担った個人が撤退すると運動が衰退し、組織が消滅する場合が多い。そのこともあり、
難病者の患者運動が社会に与えた影響は充分に吟味されてはいない。患者運動の「歴史」を解明し、今後の患者会の財政問題(研究業績4-18)、
運動を「政策」に反映させる方策などを考究する。具体的な研究テーマとして、難病連と難病行政などがある。
〈6.難病者をめぐる倫理的諸問題〉
医療倫理や
優生思想などの諸問題を考究する。倫理的諸問題については、
既に活動している
「出生をめぐる倫理研究会」がある。必要に応じて研究成果を共有し、
適宜連動して研究を進める。具体的な研究テーマとして、先天性疾患児の倫理的問題、ケア労働をめぐる倫理的諸問題、
難病の哲学および難病者に関する諸問題の倫理的検討などがある。
以上の六点を柱として、日本における難病者の諸研究を進める。各々の課題は関連しているため、最終的には何らかのかたちで関連する。難病プロジェクトは、
院生各自の研究を優先する。個々の研究成果が集積され、難病プロジェクトの研究成果となる。事情により公開不可能なものを除き、
難病プロジェクトで得たすべての情報は生存学ホームページに掲載する。難病プロジェクトに関わる
院生は、論文や研究ノート等の執筆、学会報告などを通じて、
研究成果を積極的に生産/発信する。上記の基本的作業を進めながら、最終的に(仮)『難病資料集成』、論集(仮)『難病の生存学』等、
研究成果の刊行を行なう。
難病プロジェクトのもう一つの重要なポイントは、研究成果を生産/発信するだけでなく、難病プロジェクト運営の過程で、
後輩に対して研究指導を行なうことである。
申請者は、
先端総合学術研究科在学時に
院生論集『Birth』を創刊し(研究業績2-3)、
後輩への論文指導を行なった。
衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェローとしては、
学会報告(研究業績4-5、4-7、4-8、4-9、4-14、4-15、4-16、4-17、4-18)に研究者として関与しつつ、後輩への研究指導も行なった。また、
生存学創成拠点の報告書
『不和に就て』(研究業績2-5、2-6、2-7)を編集した際にも、後輩の論稿を収録した。
申請者は、これらの後輩指導や編集経験から、難病プロジェクトの研究成果を書籍として刊行できる自信がある。現在、申請者は、
プロジェクト型大学院である先端総合学術研究科の
「プロジェクト予備演習I(公共領域)」を担当している。
演習では大学院生の問題意識の明確化に努めているが、それは翻って、院生個人の研究やプロジェクトの共同研究を推進する際の基本的な研究姿勢へと還元される。さらに、
本人が望めば、論文の個別指導を行なっている。これまで2008年度の半年間では、4本の論文に対して深くコミットし、そのうち論文1本の学会誌掲載が決定している。
また、申請者は、実際の支援活動にも関わっている。
先端総合学術研究科教授の立岩真也を理事長とする特定非営利活動法人「ある」を2008年2月に立ち上げ、
事務局を務めている。後述するように(2.-(4))研究と実践の連携可能性を模索している最中である。
申請者は、研究と教育と実践の三つの分野において、それぞれの能力を有し、かつ調整能力を持っている。研究では、
最近は
C型肝炎に関する論稿(研究業績2-3、2-7、2-8)を書いた。一貫して日本の血友病者の患者運動史を分析考究してきたからこそ、
他の研究者には書けない論稿を書く能力が培われた。教育では上述した通り、数えきれない後輩の指導を行ない、論文や学会報告などの具体的な研究成果に結実させた。
実践と研究を連携させて結果を出すのは今後の課題であるが、これまでの様々な実践経験が生きると思われる。以上のように、申請者は、
海外の研究動向からも必要とされる日本の難病者の患者運動に取り組んでいるだけでなく、後述する(仮)「難病問題研究所」を構想し、
NPO法人「ある」の実践的活動を展開させようとしている。プロジェクト型研究が奨励される今日、単に「論文が書ける研究者」ではなく、
「後輩を教育指導し、研究組織の人的育成ができる研究者」が求められている。申請者は、自らの研究業績はもちろん、
教育やプロジェクト運営において相当の自負を持っている。
3
申請者の共同研究の担当は、日本の血友病者の患者運動史の解明及び難病プロジェクト運営である。
(3) 研究の特色・独創的な点
次の項目について記載すること。
1 これまでの先行研究等があれば、それらと比較して、本研究の特色、着眼点、独創的な点
2 国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ、意義
3 研究が完成したとき予想されるインパクト及び将来の見通し
1
<本研究の特色、着眼点および独創的な点>
本研究の特色は、
日本独特の難病をめぐる諸問題を政治的文脈に着眼点を置いて、歴史的経緯を正確かつ丁寧に読み解いて考究することである。
難病をめぐる事象を医療福祉にとどまらない広範な政治的事象として捉えるのが独創的な点である。
2
<国内外の研究の中での位置づけ、意義>
これらの研究を手堅く進めていけば、将来的には「法政大学大原社会問題研究所」の難病ヴァージョンのような
(仮)「難病問題研究所」設立も可能である。
「難病問題研究所」が設立すれば、難病者に関心を持つ後進の研究者が多く集結し、世界的にも類を見ない研究機関となるだろう。例えば、
血友病者の歴史やその患者会/コミュニティを主題とした先行研究でも、日本では申請者の研究が唯一であり、世界的にも先駆的で貴重な研究である。本研究は、
海外の研究動向に鑑みても即座に必要とされる研究である。
3
<本研究が完成したとき予想されるインパクト及び将来の見通し>
難病プロジェクトは
世界的に新たな知見をもたらすことは確実である。人文・社会科学全体の問題構成/設定に再編成を迫り、
難病研究や社会運動論に大きなインパクトを与えることが予想される。また、生存学創成拠点にもたらす効果は、後述する(仮)『難病資料集成』、
論集(仮)『難病の生存学』の
刊行作業、院生の論文執筆および指導を通じて、院生の研究能力の向上に寄与する。
(4) 年次計画
以下の年次計画は、単独研究(血友病者の患者運動史の解明)と共同研究(難病プロジェクトの共同研究)と略記する。
(省略)
3.研究業績(下記の項目について申請者が中心的な役割を果たしたもののみ項目に区分して記載すること。該当がない項目は「なし」と記載すること。
申請者にアンダーラインを付すこと)
研究業績(別ファイル)
■◇◆
◇
アーカイヴ
◇
研究紹介
◇
50音順索引
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人名索引
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リンク
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掲示板
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