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「ブラックジャック」


血友病 *「神聖な義務」 *「錆びた炎」  *浦高事件 *小児慢性特定疾患治療研究事業

 血友病者の間で問題だとされたのは、テレビドラマ『加山雄三のブラック・ジャック』の 血友病を題材とした「第8話 血がとまらない」(1981年3月5日放送)である。

『加山雄三のブラック・ジャック』放映リスト
http://members.jcom.home.ne.jp/ikekat/tv/xtv_bj02.html


■ テレビ朝日に血友病患者抗議 偏見招く番組

 ヤング・ヘモフィリアック・クラブ(大阪市西淀川区=代表 西村聡文さん、会員九十人)など大阪、京都、兵庫の血友病患者三団体は十八日、 「五日夜にテレビ朝日系列で放映された番組<ブラックジャック>中の血友病についての表現はデタラメであり、患者に対する偏見と差別を生む 恐れがある」として、同局と中継各局に抗議書を送り、一週間以内に回答するよう求めた。
 問題の番組は毎週木曜の午後十時から一時間、ブラックジャックと呼ばれるナゾの天才外科医が治療不可能な患者を治していくという連続ドラマ。 五日夜の題名は「血が止まらない」で、血友病の治療がテーマ。
 西村さんによると、血友病は血液凝固時間が普通人より長いだけで、医学の進歩に伴い、健康人なみの生活も送れ大手術も可能。ところが、 同番組の出演者のセリフには、ちょっとしたケガでも血が固まらない、仕事もスポーツもできないなど、事実に反する表現が八か所もあった。 一般の人は偏見を抱き、患者は進学や就職問題で無用な差別を受ける恐れがあるとしている。

1981年3月19日(木)『読売新聞』


■ 血友病への偏見をなくすために
  天才外科医ブラック・ジャック その無知は、何をもたらすか
     山本健二

 社会における誤った知識による謂(いわれ)なき差別や偏見は、障害者問題に限ってみても実にたくさん存在する。
 血友病について言えば、かつて大西赤人君浦高入学不当拒否事件の際に、鳥かごのような中で暮らさなければならないものだと言われた。また、小林久三著『錆びた炎』 (『障害者教育研究』1・本紙55号参照)では、患者の60%以内が8歳までに出血死するとされ、外傷その他の危険にさらされないように隔離保護しておくしかないなどと 述べられていた。しかし、少し血友病について知識をもっていれば、これらがいかに誤った知識であり、前時代的なものであるかということは歴然としていることである。 しかし一方で血友病について知らない人々が圧倒的に多いこともまた事実である。
 そのような中で、ここにまた誤った知識によって描かれたものが登場した。それは3月5日にテレビ朝日系で放映された「ブラック・ジャック」である。この番組は、 手塚治虫氏の漫画をテレビドラマ化したものであり、加山雄三扮する天才外科医ブラック・ジャックが治療不可能と思われる病気を次々に直していくという筋立てに なっている。
 そして問題の3月5日に放映されたものは、20歳前後の血友病の画家が主人公になっている。その中での血友病者の描かれかたは、おびただしい誤りがあり実に歪んだ 血友病者の像になっているのである。具体的にそれを指摘する前に、血友病について簡単に述べておくことにする。
 血友病は一種の遺伝性の疾患で血液中の凝固因子の一つが不足しているため、主として関節内に、内出血を起こし、膝・肘関節などの機能障害に結びつく可能性のある 病気である。一般に、外出血を恐れる人々が多いが、これは、たいていの場合、健常者と同じように何ら心配するものではない。また近年、AHF製剤(血友病の原因である 凝固因子の不足を補充する血液製剤)の開発などの医療水準の進歩により血友病者の社会生活は、健常者とほとんど変らないものとなっている。
 このような現状の中で件(くだん)の「ブラック・ジャック」は放映されたのである。
 では、その誤りを具体的に一つ一つ示せば次のようである。
 1、「血友病はほんの少しの怪我でも血が止まらず、また血が固まらない」と述べられているが、前述したように外出血で死ぬことは通常は考えられない。また、血は 固まらないわけではなく、正確には固まりにくいだけである。
 2、「鼻血・歯茎からの出血でも生命に危険がある」とされているが、このような場合ほとんど治療は不要だし、もちろん生命に危険などない。
 3、20歳前後の患者をして、「ここまで生きていることが奇跡だ」と言わせるが、現在の医学水準からしても、健常者と同様に生きているのは言うまでもないこと である。
 4、「スポーツ・仕事も不可能」としているが、血友病の患者はほとんど普通の仕事につき、特に過激なものを除けばスポーツも可能であるのは明確な事実である。
 5、「ほんのすり傷程度でも外出血したら危険である」としているが、実際、そのようなことで生命に危険がおよぶことなどありえない。
 その他「手術がまったく不可能」であるというような言い方がなされていたが、実際はAHF製剤によってほとんどが可能になってきている。
 以上のように、まったくデタラメな表現ばかりである。その一方で出血死しそうな主人公の青年が一つの関節障害もないというような筋立て自体に矛盾がある有様 である。
 そしてこれが今まで数々あった血友病に対する偏見と実に酷似している。浦高当局者しかり、小林久三しかりである。
 ほんの少し血友病について調べていれば、このような明らかな誤りによる血友病者像は作り出されずにすんだことは明確である。その点での安易さも小林久三と同じなの である。
 そしてこの誤った知識による偏見や差別により血友病者の権利が剥奪されることになりかねない。この重大さに気づかないテレビ朝日の関係者らは製作者としての基本的 な態度を失しているのであり、その安易さは、厳しく批判されずにはすまされない。なぜならドラマはフィクションであるが、血友病者は決してフィクションではないから である。
 このことについては、すでにYHC(血友病患者の青年有志の組織)と京都・兵庫の血友病の患者団体が抗議書を提出し、テレビ朝日から回答があったと聞いている。
 いずれにしろ、この種の偏見や差別があとをたたないのが現実であり、その度ごとに私たちは粘り強く一つ一つに対して正していかなければならない。
 偏見一般・差別一般などは存在しない。一つ一つ打ち破らなくてはならない。なぜならことは権利の問題にかかわるからである。
 そうしなければ、第二の大西問題が起こらないと誰が言えるだろうか。最近ではその種の偏見を反映して渡部昇一のごときやからが平然と血友病者切り捨て(障害者 切り捨て)を言って憚(はばか)らないところまできているのである。ことは急がねばならない。

1981年4月20日 『人権と教育』月刊95号
障害者の教育権を実現する会

作成:北村健太郎
UP:20031105 REV:1109,20040119
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